メリーさんから電話
アプリアカデミー
2013-09-06

こんにちは。

わたしが若い頃、あった実話なんですけれどね。
家の電話が黒電話だったんですね。で、ダイヤルを回すばかりなので、面白くなくて友達から「プッシュ式」の電話を借りてくるんですよ。

黒電話の上にプッシュ式のモジュラージャックがあったんで、それを差して使ったら使えたんですね。面白かったので、プッシュで友人にかけたり、プッシュ式 で受け取れる情報を取ろうと、父と目論んだのですが、残念ながら、回線自体がダイヤル回線だったので、それは出来ない事となりました。

主人と付き合いだした時、伝言カードってのがありましてね。主人がある所に電話して、留守電を残したら、わたしが後で受け取りの電話番号に電話して、暗証番号をいれたら、それで留守電が聞ける、または追加の留守電を残せるってカードがあったんですね。

まぁ、そういうようなモノの先駆け商品が出ていた頃に、興味を持った父とわたしと兄は、それで結構様々なものを自宅でやってみたかったんですね。

けれど、色々試すうちに、使えない事が分かり、そのまま放っておいたんですよ。

ところが、その後、兄がいて、父と母が留守宅の時、電話が急に普段の音ではない音で、鳴りだしたんですね。わたしはその時、兄が、NTTの3ケタの番号でのテスト番号にかけて、後で鳴り返してきたのを聞かせてビビらせようと思っているんだなと思ったんですね。

まぁ、当然ですが、出ても誰も答えない。

「おにーちゃーん。あのさー、馬鹿にするんじゃねーよ」と言いかけて、そう言えば、兄は電話のない2階にいる事に気がついたんですね。受話器を下ろして、 そうしてしばらくしたら、また鳴りだす。それも、普段の鳴り方ではない。けたたましく鳴っている音に、兄が興味をひかれて降りて来て、「お前何やってんだ よ」と言い、「お前、両方の電話を繋げておくから、かかってきた時に電話が混乱するんだよ。その緑のプッシュの方外しとけよ。誰か、かけて来てるんじゃ ねーの。」そう言うんです。

やっぱ、煩いし、親戚がかけてきたのなら、一大事ですからね。急いで鳴り響く中、その電話を外した。

「お兄ちゃん、外したよ。」

けれど、ジャックを引きぬいて一旦切れた電話の音は、やはりもう一度鳴り始めたんですね。兄は、試しに自分の近くに合った黒電話に出た。「音しないじゃんか。お前が、ずっとプッシュなんか差しとくから回線が混乱しているんじゃねーの、電気故障じゃねーの?」

「お兄ちゃん、音鳴り続けているのは、お兄ちゃんの持っている黒電話じゃなくて。」


「緑の電話か。」


「うん。」

「うぇぇぇ。お前、それすぐ座布団の下にいれろ。」

「うわぁぁぁ、お兄ちゃん、座布団で包んだけれど、鳴りやまないよ。」

「お前その上に乗れ。」

「やだよ。これ借りてきた奴だよ、壊れたらどうすんだよ、兄ちゃん。」

「壊れるとかの問題かよ。これはな、今から段ボール持ってくるから、箱に入れて、裏の倉庫に置いてこい」

「早く兄ちゃん。早く早く。急いでよ。」

結局、一時間近く鳴り響いた電話は、その後兄が急いで探して来た段ボール箱に入れる前に、鳴りを潜め、わたしはそのまま貸してくれた友人に電話で「あのさ、変な事聞くんで悪いけれど」と聞く事とした。兄が横にいて、指示してきて、兄妹、タッグを組んで友人に聞く事とした。


しかし、友人はいとも簡単に笑って言った。

「あっ貸す時、言い忘れたんだけどさ。それ繋いでなくても、いきなり勝手に鳴るんだ。修理したんだけれどね。何で鳴るんだか分からないんだ。あっ返す? しょうがないなぁ。おまえんちで引き取ってもらえりゃ、よかったのに。電電公社も嫌がって引き取らないんだよ。やっぱ、流石のお前んち、でもダメか (笑)。お前のお父さんに聞いてみろよ、それかお兄さんに。」

「うちの兄に何とかして貰えって?うちのお父さんがなんかできるって?」

兄は激しく首を振った。恐らく一生見た中の3番目位の勢いで首を振った。早く返せとゼスチャーをしてくる。わたしはそのまま言った。


「これ、返す。どの道、うち、ダイヤルだから使えないんだよねー。」

「そっか。」友人はそう言って、即、引き取りにバイクで来た。
そのまま、箱ごと友人に渡し、その電話とはお別れを出来た。その後、自分は、またどこからかのバイト先で、カプラーを借りて来て海外通信までするのだが、その時、自宅の黒電話を、思わず長い間撫でさすってしまった。

そして、長い間、プッシュという言葉にかなり強烈なトラウマが出来てしまい、主人と結婚しても割と長い事、ダイヤル回線で通した。その後、プッシュ回線に 切り替えざるを得なくなった時、プッシュ回線になった途端、その電話に向かって、五体投地にて、思わず拝んだ。「あんな電話になりませんように。」


その後、発明された携帯にて、まさか自分の身にもう一度降りかかるとは、夢にも思わない、あれは、確か高校3年の夏だった。




小林 保
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